「Night Diver」の歌唱から分析!
歌手・三浦春馬を、語る
三浦春馬のシングル第2弾「Night Diver」。
発売日から毎日、聞いているのだけれど、この曲、本当に超難曲。これを歌いこなせるって、三浦春馬という人は、とんでもない歌い手である。
しかも、こんなに難しい曲を、テレビの生放送で踊りながら披露しようとしていたんだよ(MステSPへの出演が決まっていた)。恐ろしい話だ。
もし歌って踊るんだとしたら、全員が歌も踊りもハイレベルにこなせる韓国の大人気グループ・BTS(防弾少年団)が、7人でパートを分けて歌ってちょうどいいくらいの曲なのだから。
これは、彼が亡くなったことを理由に、ひいき目を出して言っているわけではない。
きっと、彼が生きていたとしても、私は同じことを思ったと思う。そして、同じようにこうして書いていたと思う。
「Night Diver」の何がどう難しくて、三浦春馬の歌唱の何がすごいのか。
細々とだけれど、約10年ボイトレを受けてきた私なりに、解説していきたい。
(私は音楽を本格的に習ったことはなく、楽譜も読めなければ、何の楽器も弾けません。その程度の知識だということをご理解・ご了承ください)
まず、楽曲の構成を見てみよう。
下記のように、<Aメロ>⇒<Bメロ>⇒<サビ>が1番と2番で繰り返された後、ブリッジ(大サビにつながるA・Bメロとは異なるフレーズ)となる<Cメロ>、そして<Dメロ>がきて、<大サビ>で終了している。
<Aメロ>
瞼閉じて映る世界
そこに君がいるならば
もういっそこのままでいいや
いつまでも忘れられなくて
<Bメロ>
明日になれば治まるような
胸に突き刺さる棘の行方
知らんふりして見ないようにして
気づいたら戻れないような気がした
昨日も同じこと考えて結局こんな夜過ごして
それでも嫌な感じじゃなくて
<サビ>
きっと誰も知らない言葉が今僕の中で
渦を巻いてずっとLoop Loop Loopして
吐き出そうと声を出してみてもうまくいかない
My Heart beats faster
Night Diver
Night Diver
Night Diver
<Aメロ>
あの頃に戻れるなら
僕に何ができるだろう
多分何も変わらなくて
きっと今の僕には変えられない
<Bメロ>
明日になれば治まるような
胸に突き刺さる棘の行方
知らんふりして見ないようにして
気づいたら戻れないような気がした
昨日も同じこと考えて結局こんな夜過ごして
それでも嫌な感じじゃなくて
<サビ>
ずっとこのままで良いわけなんてあるはずもない
弱音吐いた夜をずっとLoop Loop Loopして
情けないこの心に生きる理由を与えて
My Heart beats faster
Night Diver
Night Diver
Night Diver
<Cメロ>
記憶の中であの日を思い出す
くだらないプライドばっか掲げて
知りもしないくせに適当に過ごしてばっか
呆れられて情けなくて嘘をついてた
<Dメロ>
数え切れないほどの言い訳を積み重ね
大事なもの失って
流れた涙は夜に落ちた
<大サビ>
きっと誰も知らない言葉が今僕の中で
渦を巻いてずっとLoop Loop Loopして
吐き出そうと声を出してみてもうまくいかない
My Heart beats faster
Night Diver
Night Diver
Night Diver
【難曲ポイント1:めまぐるしく変わるリズム】
この曲は、まるで、異なる曲を組み合わせているかのように、楽曲を構成する<Aメロ>、<Bメロ>、<サビ(大サビも含む)>、<Cメロ>、<Dメロ>のリズムが、それぞれ異なる。
<Bメロ>なんて、めちゃくちゃ早口で、どこで息を吸えばいいのかわからないくらい。
そして、<Dメロ>のトリッキーなリズム。ここ、普通に歌うだけで大変なのに、細かく裏声と地声を切り替えて歌っていて、それがまったく不自然じゃない。
それどころか、難儀な<Dメロ>が、楽曲の中のアクセントとして活きていて、素晴らしい。これは、一流の歌い手にしか発揮できないスキル。
しかも、すべてのパートにおいて、効果的に強弱をつけて歌っているから、リズムをより感じながら聴くことができる。
リズムを意識せずに歌うと、のっぺりした印象になってしまい、楽曲のもつ躍動感を感じることができないし、歌詞も聴きとりづらい。
でも、春馬くんは、しかるべきところにしっかりとアタックを入れたり、引くところは引いたりしているので、メリハリが出て、楽曲が立体的になり、活き活きとした印象を生み出す。歌詞も聴きとりやすい。
歌い出し一つとってもそう。
「瞼閉じて映る世界」を、「ま<ぶ>た と<じ>て う<つ>る せ<かい>」と、< >で囲った位置を強めに歌っており、だからこそ、リズムが生まれる。
どのフレーズを聴いてもそうなのだ。ボーカルディレクションが入っているのかどうか知らないけれど、何度も何度も練習して、より楽曲を活かせる歌い方を研究したんだろうなということが、端々から伝わってくる。
【難曲ポイント2:キーが高すぎる】
なんでこんなに高いキーを歌わされてるのか、疑問に思うほどだった、第1弾シングルの「Fight for your heart」と比べればまだマシだが、「Night Diver」も、全体的に男性が歌うのにベストなキーではない。
だって、女性の私が歌っても、ちょっと気を抜くと音を外してしまいそうな、裏声でしか歌えないメロディがわんさかあるのだもの。
しかも、<Aメロ>には、主旋律よりも1オクターブ高いキーのコーラスを、そして<Bメロ>と<サビ>には、1オクターブ低い&1オクターブ高いキーのダブルでコーラスを入れているんだよ。
ただでさえ高いキーなのに、1オクターブ上でコーラス!すごすぎるよ!
こんな女性でも歌うのが大変なメロディを、美しい裏声を駆使して歌い切っている。二流の歌い手は、裏声の部分になると、得てして声量が小さくなり、弱々しく聴こえるのだが、彼の歌にはそれがない。
地声と変わらない音量でしっかりと裏声が出せているから、違和感なく、耳に入ってくるのだ。
どこを地声で歌って、どこを裏声で歌うか。それも事前にしっかり決めて、ナチュラルに聴こえるように、何度も何度も練習したんだと思う。
以前に、世界的なミュージカル女優、シンシア・エリヴォと春馬くんが共演するステージを見に行ったときも、「ものすごい練習量を感じる歌」と評価したのだけれど、今回もそう。
ドラマに、舞台に、情報番組に、取材に、ダンスの稽古に、体力トレーニングにと忙しいなかで、いつ練習していたんだろうと、そのストイックさに胸が痛む。
どこまでも努力を惜しまない人だったんだということが、たった1曲の楽曲のパフォーマンスでわかる。とんでもないよね…。
キーが高すぎる問題で言うと、カップリングの「ONE」のサビもやばい。サビの終わりのフレーズ、力強い裏声でロングトーンしながら、ビブラートまでかけている。しかも、それが何度も続くんだ…。
春馬くん自身が作詞・作曲しているもう1曲のカップリング「You&I」。短いBメロこそ裏声を使うが、Aメロはしっとり胸に響いてくる低い地声だし、サビも地声で力強く歌い上げていて。
このくらいのキーで歌うのが、本人的にはベストだったんだろうなと、歌い手本人が作曲した作品を聴いて感じた。
「You&I」を聴き、もう1つ感じたことがある。それは、春馬くんて、本当に実直で真面目な人だったんだろうなってこと。
歌詞で使っている言葉を見るにつけ、そんな印象を受けた。
「穏やかな胸に差し込む恋慕に 切なさの意味が根を張り囲う」
「そっと日々の甘美が滲み出すの」
「愛でるほどに深まる 互いの愛の調」
恋慕とか、甘美とか、調とか。切なさの意味が根を張り囲う、とか。まるで、哲学者みたいな、昔の文豪みたいな言葉の選び方。
以前に、東出昌大の不倫報道を擁護したのではないかと騒がれた、このツイッターの文面にも、今どきの男の子らしくない言葉が並んでいたっけ。
「明るみになる事が清いのか、明るみにならない事が清いのか…どの業界、職種でも、叩くだけ叩き、本人達の気力を奪っていく。
みんなが間違いを犯さない訳じゃないと思う。国力を高めるために、少しだけ戒める為に、憤りだけじゃなく、立ち直る言葉を国民全員で紡ぎ出せないのか…」
こういう自分なりの思想や信念、世界観がしっかりある人にとっては、今の世の中はとても生きづらいだろう。芸能界なんて、それに輪をかけてそうだと思う。
何を言っても彼は帰ってこない。彼が彼なりの信念と実直さと情熱を持って生み出した、多くの作品を愛し続けるのが、残された人間にできること。
だから私は、とんでもなく難しい曲に果敢にチャレンジして、それに勝利し、見事な作品に仕上げた「Night Diver」という曲を、ずっと聴いていくよ。
頑張って覚えて、練習して、カラオケでも歌ってやるんだ!!!