スペインの新鋭、ガルダー・ガステル・ウルティア監督の初の長編作品。
真ん中に大きな空洞のある高層の建物に、1階層に2人ずつ、閉じ込められた人々。任意の階があてがわれ、階層は1カ月ごとに変わる。
上から料理を乗せたプラットフォームが降りてくるときだけ、食事が可能。しかし、上の階の者たちが食べ尽くしてしまえば、下の階の人間の胃には入らない。
下層になればなるほど、生きる可能性が低くなるということだ。
とにかく、この不思議な設定からして引き込まれてしまう。
いったいここは何のための場所なのか、それが最後までわからないというのも、世界観が変に壊されなくて良かった。
(何かの記事では、刑務所だとの記述があった。確かに罪を犯した者も収容されていたが、自ら望んで入った者もいるため、明らかにそうだとは言えない)
常軌を逸した環境のなかで巻き起こる、血で血を洗う醜い争い。
上層階から順に、下層の者たちへの分配を念頭に置いて食べる量を調整すれば良いのだけれど、次にどの階層に行かされるかわからない彼らは、食べられるときに食べられるだけ食べておこうという意識しか働かない。
絶望し、空洞から飛び降りて命を落とす者もいる。同階層の人間を殺してその肉を食べる者もいる。
極限の状況に置かれたとき、どんな振る舞いをするのか。その人の本性が露わになる瞬間が本当に恐ろしかった。
主人公の男性・ゴレンと階層を共にする者や、空洞越しに顔を見ることができる上下の階の者たち。
時折、食事と一緒にプラットフォームに乗って降りてくる謎の女性。それぞれとのやりとり、築かれる関係性もまた、異様な環境下であるからこそ、一筋縄ではいかない。
架空の世界の物語ではあるものの、階層社会のリアルや、人間の醜さ、そしてひと握りの正義感など、現実世界に通じるさまざまな問いかけが、作品を通してなされていたように思う。
ゴレンは、次はどの階層にいて、どんなことが起こるのか。手に汗握り、グロいシーンには目をつぶり。
ずっとドキドキしっぱなし。94分の映画で良かった。それ以上見てたら、私も気が狂ってしまいそうだもの。インパクト超特大、忘れられない作品になった。