この作品を通して一番感じたのは、人は本当にやりたいことをしなければ、他で必要とされたとしても心からの喜びを感じることができないということ。
また、人は誰かに認められ、自分の役割や興味を見出すことができれば、いくつになっても新しい一歩を踏み出せるということだ。
人並外れた繊細な嗅覚を持ち、ハイブランドの香水を次々と手掛け、業界の注目の的だった主人公・アンヌ。
しかし、ストレスにより一時的に嗅覚を失ってしまった過去によって、華々しい仕事は来なくなり、芳香剤の開発など、地味な仕事ばかりをこなす日々だ。
彼女の運転手として派遣されるのが、妻と離婚して親権を取られてしまったギヨーム。
せめて月の半分は娘と暮らしたいと主張するが、彼の薄給では広いアパートを借りることができず、裁判所は彼の主張を認めてくれない。
感謝の気持ちを表現したり、愛想を振りまいたり、思いやりのある行動をとったりすることはなく、傍若無人に振る舞うアンヌに、不満を募らせるギヨーム。
彼は何度も不満を爆発させて、彼女に説教めいたことを言うのだが、これまで他人にそこまではっきりとものを言われたことのなかったアンヌは、次第に彼に心を開いていく。ギヨームもまた、孤独のなかでひたすら匂いに執着するアンヌのこと、彼女を惹きつける香りの世界に興味を抱いていく。
ある日、アンヌは、ギヨームの嗅覚がとても優れていることに気がつく。そして、彼に仕事を手伝ってほしいと頼むのだ。
これまで知りもしなかった調香師の世界。その奥の深さに心を惹かれながらも、何の取り柄もない中年の自分が新しいことを始めるだなんてと、ギヨームは戸惑う。
しかし、また香水を作りたいと願い、一緒ならば良い仕事ができるはずだと信じるアンヌの純粋な気持ちに応え、彼女の相棒になることを決める。
物語の最後、自身の仕事について話してほしいと頼まれ、ギヨームが娘の学校で特別授業をするシーンに胸が熱くなった。
しがない運転手でしかなかった彼が、調香師という仕事について、生き生きと胸を張って子どもたちに語る。それを見て、娘は誇らしげな表情を浮かべる。
年齢やそれまでの経歴なんて関係ない。夢中になれること、誇りを持って取り組めることに出合えたなら、勇気を出してそこに飛び込むべきだ。
もちろん、未知の世界は怖いし、成功する保証はない。だけど、もしやらなかったら、ずっとずっと後悔を抱いたまま生きることになるに違いない。
幸せとは自分の手でつかむものだと、よくわかった。
アンヌを乗せた車が走る、フランス郊外の美しい田舎の風景、彼女が泊まるオーベルジュや、彼女が暮らす高級アパルトマンの内装のステキさにも、ぜひ注目を。